「論文式試験に受かったら、卒業前でも監査法人で働けるらしい」。合格発表が近づくと、先輩や予備校の仲間からそんな話を聞く人も多いはずです。
ただ、時給はいくらなのか。授業やゼミと両立できるのか。卒業したあとはどうなるのか。具体的な話になると、急に情報が少なくなります。ネットで「監査法人 非常勤」と調べても、出てくるのは公認会計士登録を済ませた経験者向けの求人がほとんどです。
この記事では、大手4法人と準大手4法人の採用ページを実際に確かめたうえで、試験合格者が非常勤で働くときの流れ・仕事内容・時給の目安・卒業後への効き方をまとめました。説明会で何を聞けばいいかのチェックリストも載せています。
この記事の要点
- 監査法人の非常勤は「在学中の試験合格者が卒業まで働く形」と「公認会計士登録後の人が日数を絞って働く形」の2種類。時給も働き方もまったく違う
- 8法人の採用ページのうち4法人が、学生の合格者を卒業まで非常勤で受け入れると明記。EY新日本は学生の勤務を月105時間未満に抑えている
- 学生非常勤の時給は採用ページに載っていない。常勤の初任給を時間で割ると約2,500〜2,600円で、相場とされる2,500〜3,000円とほぼ重なる
監査法人の非常勤とは?試験合格者と有資格者で中身が違う
監査法人の非常勤は、所定の勤務時間より短く働く雇用形態です。在学中の試験合格者向けと、公認会計士登録後の経験者向けの2種類があります。
検索で目に入る「非常勤なら時給5,000円以上」といった話は、ほぼ後者のものです。論文式試験に受かったばかりの人がそのまま当てはめると、金額も仕事の中身もずれてしまいます。
まずは3つの働き方を並べて、違いをつかんでおきましょう。
| 項目 | 学生非常勤(試験合格者) | 常勤(スタッフ) | 有資格者の非常勤 |
|---|---|---|---|
| 対象 | 論文式試験に合格した在学中の学生 | 論文式試験合格者(卒業後・既卒) | 公認会計士登録を済ませた監査経験者 |
| 契約 | 法人との非常勤の雇用契約※5 | 期間の定めのない雇用 | 日数・期間を決めた契約 |
| 働く時間 | 学業優先。上限を設ける法人あり(例:月105時間未満※2) | 9:30〜17:30など所定の時間(休憩1時間)※3 | 週2〜3日など契約しだい |
| 主な仕事 | 研修のあと、監査チームで監査実務の補助※5 | 監査チームの一員として監査業務 | 繁忙期の応援など、即戦力としての監査 |
| 時給の目安 | 2,500〜3,000円程度※9 | 月給制(例:首都圏の大手で月給365,000円※3) | 6,000〜10,000円※9 |
| その後 | 卒業後は原則として常勤へ切り替え※2 | スタッフからシニアスタッフへ昇進 | 独立・子育てなどと両立しながら継続 |
この記事が主に扱うのは、いちばん左の学生非常勤です。いわゆるアルバイトとの違いは、法人と雇用契約を結び、研修を受けてから監査の現場に入る点にあります。有資格者の非常勤については、後半の「ずっと非常勤で働くことはできる?」で触れます。
非常勤で働けるのはいつから?合格発表から卒業までの流れ
11月中旬の合格発表のあと内定を得て、翌年1〜2月の入所日から卒業までの期間が非常勤になるのが一般的な流れです。
2026年の論文式試験は8月21日〜23日に行われ、合格発表は11月中旬の予定です※1。入所日は法人によって違い、大手と太陽は2月、準大手・中小の多くは1月です。たとえばEY新日本の募集要項では2027年2月1日※3、仰星の東京事務所は前年の要項で1月1日でした※6。
非常勤の期間がどれだけ続くかは、合格したときの学年で決まります。3月に卒業する場合の単純計算は次のとおりです。
| 合格したときの学年 | 1月入所の場合 | 2月入所の場合 |
|---|---|---|
| 大学4年 | 1〜3月の約3か月 | 2〜3月の約2か月 |
| 大学3年 | 約1年3か月 | 約1年2か月 |
| 大学2年 | 約2年3か月 | 約2年2か月 |
| 大学1年 | 約3年3か月 | 約3年2か月 |
大学院生は修了予定の年に読み替えてください。大学4年で合格した人にとって、非常勤は「卒業までの数か月」にすぎません。一方、大学3年以下で合格した人は1年以上を非常勤で過ごすことになり、働き方の設計がそのまま大学生活の設計になります。
下の図は、大学3年の秋に合格した人の例です。授業期間と長期休暇、そして監査の繁忙期が1年の中でどう重なるかを示しています。
11月中旬
1〜2月
3月
4月
選考から入所までの全体の段取りは、監査法人の就活ガイド(合格後から内定・入所までの手順)で時系列にまとめています。
非常勤で入所できる法人を探すなら、まず各法人の採用情報をまとめて見ておくと、説明会に行く先を絞りやすくなります。
学生合格者の扱いを8法人の採用ページで比べると?
大手4法人・準大手4法人の採用ページを確認したところ、4法人が、学生の合格者を卒業まで非常勤で受け入れると明記していました(2026年10月9日時点)。
| 法人 | 区分 | 採用ページの記載 |
|---|---|---|
| EY新日本有限責任監査法人 | 大手 | 学生非常勤として勤務できる。勤務は月105時間未満が上限。卒業後は原則として常勤へ切り替え※2 |
| 有限責任あずさ監査法人 | 大手 | 学年を問わず学生合格者を採用。卒業までは非常勤。学業優先か勤務かを本人が選べる※4 |
| 有限責任監査法人トーマツ | 大手 | 募集要項・よくある質問に記載を確認できず※12 |
| PwC Japan有限責任監査法人 | 大手 | 募集要項に記載を確認できず※13 |
| 太陽有限責任監査法人 | 準大手 | 学年を問わず学生合格者を採用。卒業までは非常勤の雇用契約。研修のあと監査実務に従事できる※5 |
| 三優監査法人 | 準大手 | 募集要項に記載を確認できず※14 |
| 東陽監査法人 | 準大手 | 募集要項・よくある質問に記載を確認できず※15 |
| 仰星監査法人 | 準大手 | 東京事務所の前年の要項で、2026年3月以降に卒業予定の合格者は非常勤の契約を結べると記載※6 |
「記載を確認できず」は、制度がないという意味ではありません。採用ページに書いていないだけで、説明会や面接で個別に案内している法人もあります。表で空いている欄こそ、説明会で聞くべき項目です。
聞いておきたいのは次の6つです。メモしてそのまま持っていけば、法人ごとの違いがはっきり見えてきます。
- 卒業までの非常勤は勤務が前提か、学業優先で勤務しない選択もできるか
- 月・週あたりの勤務時間の上限と、最低限求められる勤務日数
- 時給の額と交通費、時間外の扱い
- 研修の時期(入所直後にまとめて受けるのか)
- 非常勤で働いた期間が、常勤に切り替わったときの年次にどう反映されるか
- 他のアルバイトとの掛け持ちは許可制か
非常勤の扱いは、法人選びの軸の1つにもなります。年収や勤務地と合わせてどう比べるかは、監査法人の選び方(後悔しない5つの軸)で整理しています。
学生非常勤の仕事内容と1年の働き方は?
入所時の研修を受けたあと監査チームに入り、常勤の新人と同じく監査の補助を担当するのが基本です※2※5。働く量は大学の予定に合わせて調整します。
研修を受けてから監査の現場に入る
現場に出ると、被監査会社の帳簿の数字を請求書や契約書と突き合わせたり、確かめた内容を監査調書にまとめたりします。
限られた時間で、常勤の新人と同じ種類の仕事を受け持つイメージです。監査の現場で何をするかは、公認会計士は監査で何をする?(仕事内容と向いている人)で詳しく紹介しています。
授業期間・長期休暇・繁忙期で働き方を変える
EY新日本の採用ブログ(2017年、名古屋事務所の職員による記事)では、学生非常勤の働き方がこう紹介されています。授業期間は空きコマのある日に勤務し、2・3月や8・9月の長期休暇は毎日勤務。繁忙期には、希望すれば1時間単位でも働けたそうです※7。
監査の繁忙期は4〜5月です※9。3月決算の会社が多く、期末の監査がこの時期に集中するためです。ちょうど新学期と重なるので、履修登録の段階で「4〜5月に空けられる曜日」を決めておくと、法人とも相談しやすくなります。繁忙期の詳しい中身は監査法人の繁忙期はいつ?(年間スケジュールと1日の流れ)を参考にしてください。
どのくらい働けるのか
EY新日本は、学業優先のため学生非常勤の勤務を月105時間未満に抑えています※2。常勤の所定時間と並べると、上限の重さがわかります。
月105時間は、週5日なら1日5時間ほど。上限いっぱいまで働けば、常勤のおよそ4分の3です。実際には授業やゼミで動けない日があるので、多くの人はこれより少なくなります。
非常勤の期間をどう使うかは、人によって分かれます。たくさん働いて実務に慣れておく人もいれば、卒業までは学業を優先する人もいます。どちらが正解ということはありません。
迷ったら、まず入所する法人の説明会で、学生非常勤として働いている先輩の話を聞いてみてください。
非常勤の時給はいくら?常勤の初任給から逆算する
試験合格者の非常勤の時給は2,500〜3,000円程度が相場とされ※9、常勤の初任給を時間あたりに直した約2,500〜2,600円とほぼ同じ水準です。
今回確認した8法人の採用ページには、学生非常勤の時給は載っていませんでした。金額は法人の規定で決まり、内定後に条件として示されるのが一般的です。そこで、公表されている常勤の初任給から目安を逆算してみます。
| 見方 | 時給の目安 | 根拠 |
|---|---|---|
| 常勤の初任給を時間あたりに直す(首都圏の大手) | 約2,600円 | 月給365,000円※3を月140時間で割った試算 |
| 常勤の初任給を時間あたりに直す(準大手の例) | 約2,500円 | 月額35万円※6を月140時間で割った試算 |
| 試験合格者の非常勤(転職支援会社の解説) | 2,500〜3,000円程度 | ※9 |
| 公認会計士登録後の非常勤(同上) | 6,000〜10,000円 | ※9(監査経験が前提) |
月140時間は、1日7時間(9:30〜17:30・休憩1時間※3)を20日働いた場合の数字です。この試算に賞与は含めていません。
月の収入にすると、時給2,600円で月40時間なら約10万円、月100時間なら約26万円。一般的なアルバイトより高い水準です※9。常勤になってからの額面や手取りは、公認会計士1年目の年収(額面・手取りの月別シミュレーション)で確認できます。
親の扶養から外れる線に注意
大学3年以下で合格して1年以上働く人は、年間の収入が親の扶養に響きます。2025年分から税のルールが変わり、線の位置も動きました※11。
- 合計所得58万円以下なら、これまでどおり親の扶養控除の対象
- 19歳以上23歳未満で合計所得58万円超123万円以下なら、親は「特定親族特別控除」(最高63万円)を受けられる。所得が増えるほど控除額は小さくなる
- 給与所得控除の最低額は65万円。給与だけなら年収123万円・188万円がそれぞれの線の目安
月26万円を1年続ければ、どちらの線も大きく超えます。大学4年の1〜3月だけ働く人なら影響は小さいはずですが、長く働く人は、年間でどのくらい働くかを先に親と話しておくと安心です。
非常勤の経験は常勤登用と就活にどう効く?
非常勤で働いた経験は、卒業後に常勤へ切り替わったときの立ち上がりを早めます。法人によっては、常勤になったときの年次に反映された例もあります※7。
卒業後は原則として常勤に切り替わる
EY新日本も太陽も、卒業後は常勤に切り替える前提で学生を採用しています※2※5。非常勤のまま卒業後も働き続ける形は、少なくとも採用ページ上は想定されていません。
先ほどのEY新日本のブログでは、常勤への切り替え時は基本的に1年目として始まるものの、非常勤の間に多く勤務して研修を受けていれば、2年目からスタートできることもあると紹介されています※7。2017年の記事なので、今の運用は説明会で確かめてください。
業務補助等・実務補習とのつながり
公認会計士として登録するには、試験合格に加えて3年以上の業務補助等(実務経験)が必要です※8。非常勤の期間がこれに数えられるかは、勤務の実態と法人の証明で決まります。数え方の考え方は公認会計士の業務補助の攻略ガイドで解説しています。
試験合格者向けの研修である実務補習※10も、入所の前後から始まります。学業・勤務・補習の3つが重なる時期があるので、入所前に予定を組んでおくのが現実的です。補習所で何を学ぶかは補習所で何を学ぶ?にまとめています。
ずっと非常勤で働くことはできる?
試験合格者のうちは、卒業後に常勤へ切り替えるのが基本です。業務補助等を積み、補習所を修了して公認会計士登録を済ませるには、常勤で現場の経験を重ねるのが近道だからです。
非常勤という働き方を長く続けるのは、主に登録後の公認会計士です。独立の準備中の人や、家庭の事情で勤務時間を調整したい人が、繁忙期の監査などを非常勤で引き受けています。時給6,000〜10,000円という数字※9は、こうした監査経験のある公認会計士の相場です。
入所直後の非常勤の期間は、給与が月給より少なくなりがちです。生活費の準備は監査法人の内定後の過ごし方(合格発表から入所までの準備)を参考にしてください。
監査法人の非常勤についてよくある質問
Q1. 大学3年生で合格しても監査法人で働けますか?
働けます。あずさと太陽は、学年を問わず学生合格者を採用すると採用ページに明記しています※4※5。入所日から卒業までは非常勤として働き、卒業後に常勤へ切り替わるのが一般的な流れです。大学3年で合格した場合、非常勤の期間は1年以上になります。
Q2. 非常勤の期間に働かず、学業に専念してもいいですか?
法人によります。あずさは、卒業までの期間に学業を優先するか非常勤として勤務するかを本人が選べるとしています※4。勤務を前提とする法人もあるので、説明会で「勤務しない選択ができるか」を確認してください。
Q3. 学生非常勤の時給はいくらですか?
採用ページには載っておらず、法人の規定で決まります。相場は2,500〜3,000円程度とされています※9。常勤の初任給(月給365,000円)を月140時間で割ると約2,600円で、ほぼ同じ水準です。正確な額は内定後に示される条件で確かめてください。
Q4. 他のアルバイトと掛け持ちできますか?
法人の許可が前提です。EY新日本の採用ブログでは、許可を得てコンビニで働いたり、予備校で受験生を教えたりしていた学生非常勤の例が紹介されています※7。年間の収入が増えると親の扶養にも影響するので、合計額にも気を配ってください。
Q5. 非常勤の期間は業務補助等(実務経験)に数えられますか?
公認会計士登録には3年以上の業務補助等が必要です※8。非常勤の期間が数えられるかは、勤務の実態と法人の証明によって決まります。短い時間でしか働いていない場合は、入所時に法人へ扱いを確認しておくと安心です。
まとめ|非常勤は卒業までの時間をどう使うかの選択
論文式試験に合格すれば、卒業前でも監査法人で働けます。多くの場合、入所日から卒業までが非常勤、卒業後が常勤です。
- 非常勤には試験合格者向けと有資格者向けがあり、時給も仕事もまったく違う
- 大手・準大手8法人のうち4法人が、学生の合格者を卒業まで非常勤で受け入れると明記。働く量は学業に合わせて調整できる
- 時給は約2,500〜3,000円が目安。長く働く人は親の扶養の線(年収123万円・188万円)に注意
働くか、学業に集中するか。その判断に必要な条件は、法人ごとに少しずつ違います。気になる法人の説明会では、この記事のチェックリストの6項目をそのまま聞いてみてください。答えを並べれば、自分に合う法人が見えてきます。
参考文献・出典
- ※1: 公認会計士・監査審査会「令和8年公認会計士試験実施日程(案)」https://www.fsa.go.jp/cpaaob/kouninkaikeishi-shiken/r8shiken/r8schedule.pdf
- ※2: EY新日本有限責任監査法人 定期採用サイト「Q&A」https://www.shinnihon.or.jp/recruit/recruit/qa.html
- ※3: EY新日本有限責任監査法人 定期採用サイト「募集要項」https://www.shinnihon.or.jp/recruit/recruit/career_guide.html
- ※4: 有限責任あずさ監査法人 会計士定期採用「よくあるご質問」https://www.recruit.azsa.or.jp/information/faq/
- ※5: 太陽有限責任監査法人 採用情報「よくある質問」https://www.recruit.gtjapan.or.jp/faq/
- ※6: 仰星監査法人 採用情報「東京事務所」https://www.gyosei-grp.or.jp/recruit/jimusho/tokyo.php
- ※7: EY新日本有限責任監査法人 リクルートブログ「【名古屋事務所】学生非常勤の働き方」(2017年10月2日)https://www.shinnihon.or.jp/recruit/blog/nagoya-1002.html
- ※8: 金融庁「実務経験(業務補助等)の期間の見直しに係るQ&A」https://www.fsa.go.jp/ordinary/kouninkaikeisi/0_1.pdf
- ※9: MS-Japan「公認会計士のバイト事情|時給相場や働き方、非常勤求人情報など」https://www.jmsc.co.jp/kaikeishi/topics/12600.html
- ※10: 一般財団法人 会計教育研修機構(JFAEL)「実務補習」https://jfael.or.jp/
- ※11: 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
- ※12: 有限責任監査法人トーマツ 定期採用サイト「募集要項・FAQ」https://recruit.tohmatsu.co.jp/recruiting/flow-and-requirements
- ※13: PwC Japan有限責任監査法人 定期採用「募集要項」https://www.pwc.com/jp/ja/careers/assurance/cpa/tokyo/261001.html
- ※14: 三優監査法人 新卒・キャリア採用情報「定期採用 募集要項」https://career.bdo.or.jp/information/entry
- ※15: 東陽監査法人 採用サイト「定期採用 / 募集要項」https://www.toyo-career.com/recruitment/
