監査法人について調べてみると「監査法人は激務」だという情報を見かけることがあります。実際に監査法人で働くうえで、本当に激務なのかある程度把握しておきたいと考える方も多いでしょう。
今回は、監査法人が激務というのは本当なのか?という疑問を解消します。また、監査法人が激務といわれる理由や、以下の内容もあわせて記載しているので、ぜひ参考にしてください。
- 監査法人の忙しさは現在と過去でどう変わっているのか
- 監査法人の規模ごとに忙しさの違いはあるのか
- 監査法人はなぜ激務といわれるのか
- 監査法人の業務内容とは
- 監査法人の激務を乗り切る方法とは
- 監査法人の業務と法改正・働き方改革との関係性
- 激務といわれる監査法人の将来性
本記事で紹介する内容は、激務といわれる監査法人で実際に働くうえで、業務内容や業務量に関するミスマッチ防止に役立ちます。とはいえ、あくまでも「傾向」としての情報であるため、参考情報の一部として捉えてください。
目次
監査法人が激務というのは本当か
結論、監査法人が激務であるとは一概には言い切れません。激務と感じる範囲には個人差があり、人によっては激務であることすら認識しておらず、現状の業務内容・業務量を受け入れている場合もあるためです。とはいえ、監査法人は業務が多く、繁忙期による慌ただしさもあることから、激務といえる側面もあります。あくまで、ニュアンスを含んではいるものの、監査法人が激務であるという意見も多いと認識しておくと良いかもしれません。
監査法人の「忙しさ」における現在と過去
監査法人の忙しさは、財務情報を利用する方のニーズの変化に応じて変化したといえます。約20年前の段階では、監査基準や会計基準などが簡素であったため、連結財務諸表の監査や内部統制監査がありませんでした。しかし、時代が変化したことに加え、新たな監査概念が導入され、かつ監査における領域が拡大したため、監査法人の仕事は「激務」といわれるようになったと判断できます。
大手監査法人(BIG4)とそれ以外の監査法人における忙しさの違い
大手監査法人であるBIG4とそれ以外の監査法人では、忙しさの違いは明確化されていません。BIG4は内部資料の作成、それ以外の監査法人は限られた人員数など、規模別に異なる「忙しさ」の要素があります。
強いていうのであれば、繁忙期である4月から6月は、クライアント数やクライアントの規模が大きいことにより、BIG4の方が忙しさを感じやすいといえます。いわゆる中小の監査法人でも、経営者の多くはBIG4の業務に触れた経験があるのが現状です。そのため、監査法人の規模ごとに行う監査の内容や質に、大きな変化はないといえます。
あくまで法人としての規模やクライアント数、人員数などの要素で忙しさが変動すると認識しておくのがおすすめです。
監査法人が激務といわれる理由
監査法人が激務といわれる主な要素は、以下に挙げる5つです。
- 決算期の忙しさ
- 労働集約型という業務形態
- 複数のクライアント
- 人手不足
- 残業
ここでは、監査法人がなぜ激務といわれるのか、理由別に解説します。
決算期の忙しさ
監査法人は、決算期が集中する傾向にあるため、監査法人は必然的に決算期が忙しくなります。上場企業の決算後が、法定監査が行われる時期です。3月が決算の企業は、4月中旬までに決算が締まります。その後、監査法人による会計監査が始まることを考えると、4月中旬からゴールデンウィークまでに、決算業務が集中するといえます。また、監査法人は4半期決算があり、決算の機会が多いため、必然的に忙しい時期が多くなりがちです。
労働集約型という業務形態
監査法人の多くは、業務において労働集約型という形態をとっています。いわゆる、稼働率を向上させることで業績を上げる形態です。そのため、業績を上げる目的で稼働時間を長くし、業務量が多くなりやすいことが、監査法人が激務といわれる理由といえます。また、監査品質向上・維持のために監査手続がより厳しくなっており、公認会計士・監査審査会や日本公認会計士協会の検査に対応するためにより多くの監査手続が必要になり、結果激務となっているのが現状です。
複数のクライアント
監査法人に所属すると、複数のクライアントを担当するのが一般的です。そのため、繁忙期にはそれぞれのクライアントに対応しながら、早朝と夜間に個別の業務を行う傾向にあります。また、テレワークの台頭によりクライアントとのコンタクトが取りやすくなった反面、絶え間なく対応しなければならないのも、昨今の監査法人が激務とされる理由かもしれません。
人手不足
監査法人の仕事は、昨今台頭しているAIに一任しづらい業務ばかりです。そのため、市場の変化に合わせた効率化を実現しにくく、どうしても人手を用いた運営が必須になります。それに比例し、監査法人に所属できるほどの知見を有した人材を確保できず、既存の従業員に業務負荷が偏ってしまう場合もあります。そもそも業務内容が専門的であり、容易に人材を増やせないのも、監査法人が激務といわれてしまう要因の一種です。
残業
決算期など、忙しい時期が多い監査法人においては、残業が多くなります。複数のクライアントに対応しながら、自身の業務も並行して進めていかなければならないためです。そのため、業務を遂行しきるために残業が必然的に増えてしまいます。また、残業とあわせて繁忙期の休日出勤が増えやすいのも、激務といわれてしまう理由かもしれません。
監査法人の業務内容と繁忙期をおさらい
激務とされる監査法人の傾向について理解するためには、監査法人の業務や繁忙期に関する基本を把握しておくことが大切です。ここでは、監査法人の業務内容や繁忙期について、閑散期の情報とあわせて解説します。
監査法人の業務内容
監査法人の主な業務は、監査業務とコンサル業務です。それぞれの特徴を以下に掲載しています。
<監査業務>
- クライアント企業の財務諸表における適正性のチェック
- 公認会計士の監査は会社法・金融商品取引法により義務付けられている
- 公認会計士の監査がない状態では財務諸表に信頼性がないため投資判断が行えない
- 監査業務による適正性のチェックは資金調達・継続的な企業活動において非常に重要
- 監査業務を行ううえでは精神的独立性・外観的独立性が要求される
- 精神的独立性とは公正不偏における態度を保つこと
- 外観的独立性とは利害関係を維持し、疑いを招くような外観にしない
<コンサル業務>
- クライアントの課題解決における助言・相談のこと
- 財務コンサルティング・企業再生アドバイザリー・M&Aアドバイザリーなどがある
- 監査法人が行うのはほとんどが財務コンサルティング
監査法人の繁忙期
監査法人の繁忙期は、4月から5月とされています。これは、クライアントの決算期が関連しているためです。監査法人のクライアントである企業の多くは、決算の時期が3月から4月に集中します。決算後の監査はそれ以降に行われることが多いため、企業が決算を行う時期より少し遅れて監査法人の繁忙期がきます。また、4半期決算があることから、4半期にも業務が集中しがちです。
ちなみに、企業の規模と決算の時期に相関関係がないことから、監査法人の規模による繁忙期の変動はありません。ただし、IPO監査などは決算期を問わず入ることが多いため、部署や業務内容により繁忙期が変動する可能性はあります。
監査法人には閑散期もある?
繁忙期である4月から5月を乗り越え、かつ3月決算の株主総会が終了した段階で、いわゆる閑散期という時期が来ます。目安ではありますが、7月ごろから業務が落ち着き、余裕をもったスケジュールを組めるようになります。
監査法人は忙しい時期と落ち着いた時期がはっきり分かれているため、長期休暇のスケジュールを組みやすいのが特徴です。繁忙期を終え、7月から8月にかけて長期休暇を取る方も多くいます。とはいえ、全員が同じ時期に休暇を取ると稼働人員数が減るため、分散して休暇を取るよう促す法人も多いかもしれません。
所属する監査法人ごとに休暇を取れる時期は異なりますが、一般的な閑散期としては7月ごろからと認識しておきましょう。
監査法人の激務を乗り切るには体力面・精神面における工夫と心構えが重要
監査法人は業務が集中する時期が多いため、体力面・精神面における工夫と心構えを意識しないと乗り越えられない可能性があります。
例えば体力面に関していうと、長時間労働や残業、休日出勤が多くなることを加味し、肉体的なケアを意識する必要があります。「体を鍛える」までいかずとも、疲れをコントロールし、業務に支障が出ないよう体調を整えることが大切です。
また、激務が続く時期においては、激務をこなすことそのものへの心構えを見つめ直すことも重要になります。例えば、繁忙期を乗り越えたあとのモチベーションを自身で設定することで、激務に忙殺されにくくなるかもしれません。
激務とされる監査法人は法改正・働き方改革の影響を受けるのか
監査法人の業務量など、いわゆる激務と呼ばれる働き方については、法改正の影響を少なからず受けるといえます。しかし、法改正で繁忙度合いが見直されたとしても、離職や新規採用の滞りが原因で、一人ひとりに業務が集中する現状を打破できない監査法人もあるかもしれません。また、監査手続きそのものが厳しくなっていることから、比例して業務負荷が増える可能性も考えられます。
近年では、ワークライフバランスを重視して働きたい人員が増えていることで、多くの企業が働き方改革を実施・検討しています。監査法人に所属している人材の中にも、長時間労働や休日出勤を避け、ワークライフバランスの尊重を重要視する方が増えているのが現状です。ワークライフバランスを重視できないことを理由に離職率が高まらないよう、比較的低めの賃金で補助スタッフを雇用する監査法人も増えました。そのため、一人ひとりにかかる業務負荷を抑える方向で、働き方改革を実施している傾向にあると判断できます。
監査法人には激務に比例するほどの将来性がある?
監査法人は人手不足であることから激務といわれがちですが、比例して雇用ニーズが高くなっています。監査業務が厳しくなり、国際会計基準への対応やKAMの導入で業務量が増えることが要因です。そのため、雇用という視点においては、将来性がある業界といえます。
また監査法人は、一般企業と比べて景気の変化による影響は少ない業界です。監査法人の業務は公認会計士の独占できる領域であり、かつ上場企業にとってのニーズが高いため、景気による影響を受けにくいといえます。
ただし、業界としての問題である人手不足が何らかの形で解消され、採用人数が一気に増えた場合などは、監査法人の将来性が見直される可能性があります。
まとめ
最後に、今回の記事の内容をまとめてご紹介します。
- 監査法人は現在と過去で忙しさが変化している
- 監査法人は決算期や業務形態、クライアント数や人手不足が原因で激務といわれる
- 監査法人の業務には監査とコンサルがある
- 監査法人の繁忙期は4月から5月で、7月ごろから閑散期になる
- 監査法人の業務を乗り切るには体力・精神両方への配慮が必要
- 監査法人法改正や働き方の影響を少なからず受ける
- 監査法人は将来性のある業界といえる
監査法人の仕事はさまざまな理由から、激務といわれています。しかし、その分業界としての将来性が期待でき、かつ働き続けることでより高い知識や経験、収入を得られる可能性があります。監査法人が激務といわれる理由を把握しつつ、自身のモチベーションや将来像を明確にしておけば、働くうえでの不備は発生しにくいのではないでしょうか。