公認会計士の就職先として人気なのが監査法人です。
知名度が高いのは大手監査法人ですが、中小監査法人にも大手監査法人とは異なるさまざまなメリットがあります。
中小監査法人のメリットを知らないと「有名だから大手監査法人に就職したけど、思ってた働き方と違う…」と感じてしまうかもしれません。
ご自身のキャリアビジョンに合った選択をするために、中小監査法人がどんな人に向いているのか、メリットや特長をぜひ確認してみてください。
今回の記事では、中小監査法人のメリットやデメリット、大手との違いなど、以下の内容について詳しく解説していきます。
- 中小監査法人とは?
- 大手監査法人や準大手監査法人との違い
- 中小監査法人のメリット
- 中小監査法人のデメリット
- 中小監査法人はどんな人におすすめ?
- 中小監査法人を選ぶ際のポイント
それではそれぞれについて詳しく解説していきます。
目次
中小監査法人とはどんな監査法人?

まずは監査法人が行う業務内容や、中小監査法人がどんな監査法人なのか、大手監査法人との違いは何なのかについて、詳しく見ていきましょう。
監査法人の主な業務
監査法人とは、公認会計士法に基づいて設立された法人で、主な業務は監査業務です。
監査業務とは、企業の財務諸表を公認会計士がチェックし、内容に誤りがないかを確認する業務のことを指します。
また、監査法人ではコンサルティング業務も行います。クライアントが抱える課題の解決や、経営改善のためのアドバイスを提供します。
中小監査法人とは?大手監査法人・準大手と中小監査法人の比較
中小監査法人とは、大手・準大手監査法人以外の監査法人のことを指し、多くは大手から独立した公認会計士が立ち上げています。

中小監査法人と大手・準大手監査法人の違いを見てみましょう。
まずは具体的な監査法人名からご紹介します。
big4として知られる大手監査法人は以下の通りです。
- 新日本有限責任監査法人(アーンストアンドヤング)
- 有限責任監査法人トーマツ(デロイトトゥシュトーマツ)
- 有限責任あずさ監査法人(KPMG)
- あらた有限責任監査法人(PwC)
準大手監査法人は、大手監査法人に次ぐ規模の監査法人で、以下の監査法人が該当します。
- 仰星監査法人
- 三優監査法人
- 太陽有限責任監査法人
- 東陽監査法人
- PwC京都監査法人
上記でご紹介した大手・準大手監査法人以外の監査法人が中小監査法人に該当します。
大手・準大手監査法人も中小監査法人も、主な業務は監査業務です。違いは、取り扱うクライアントの規模や知名度にあります。
大手監査法人は、大規模なクライアントを担当することが多いのに対し、中小監査法人は、中小規模のクライアントを中心に、業務を行っています。
知名度の面で比較すると、中小監査法人よりも大手監査法人の方が一般的に知名度が高いです。
一見すると、大手監査法人にはメリットが多いように感じるかもしれません。
しかし、大手監査法人ならではのデメリットもあります。
例えば、クライアントが大手のため業務に関与する人数が多く、担当していても「自分がクライアントに関わっている」という認識があまり得られなかったり、監査業務以外の経験を積む機会が少なかったりというデメリットもあります。
中小監査法人のメリットを解説

自分の望むキャリアを実現するためには、自分に合った監査法人を選ぶことが大切です。中小監査法人には、その特色を活かした多くのメリットがあります。
中小監査法人のメリットについて、具体的に詳しく見ていきましょう。
新人でも多岐にわたる実務経験が得られる
中小監査法人でも大手監査法人や準大手監査法人でも監査業務を主に行いますが、大手監査法人に比べ中小企業など小規模なクライアントが多いため、監査以外の多様な業務経験を積める可能性があります。
新人のうちからコンサルティングやアドバイザリー業務に関わる可能性があるのは大きなメリットです。
ただし、大手監査法人でもコンサル部門に入所すれば、1年目から会計に関するコンサルティングやアドバイザリー業務に関わることも可能となります。

ワークライフバランスが実現しやすい
ワークライフバランスの面でも、中小監査法人は魅力的です。
大手監査法人と比較すると、中小監査法人の方がワークライフバランスを実現しやすい環境が整っています。
大手監査法人では業務量が多く激務になってしまう傾向にあります。
中小監査法人はほとんどの場合全体の人数が大手よりも少ないので、自分の裁量で効率的に作業を進めやすい、ワークライフバランスを実現しやすいというメリットがあります。
昇格するスピードが早い
一般的に監査法人の役職は、スタッフ、シニア、マネージャー、パートナーに分かれています。
中小監査法人は、大手に比べて役職の昇格スピードが早い傾向にあります。昇格すると給料も増えるので、収入も上がりやすいというメリットがあります。
マネージャーやパートナーといった責任あるポジションを早い時期から経験したい方に、中小監査法人はおすすめです。

大手監査法人と年収は変わらないことも
中小監査法人は、大手監査法人より年収が低いと思う方も多いのではないでしょうか。
実際、若手の頃は大手監査法人の方が年収が高い傾向にあります。
しかし、中小監査法人は昇格が早いため、勤続年数が上がるにつれて年収も上がるため、大手監査法人と年収は変わらない、または高くなる場合もあります。
公認会計士の勤続年数別の平均年収はどのくらいなのか、具体的な金額を見てみましょう。
厚生労働省のデータによると、大手監査法人の平均年収は勤続1〜4年で626万円、勤続5〜9年で704万円、勤続15年を超えると平均年収は1,214万円になります。
引用:職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)(厚生労働省)
厚生労働省
※このデータでは、公認会計士と税理士が同じ職種区分となっています。

クライアントとの距離が近い
クライアントとの距離が近いというのは、中小監査法人のメリットの一つです。
大手監査法人の場合、クライアントは主に大手企業となります。そのため特に若手の頃はクライアントと直接やりとりする機会が少なく、監査業務をチームの一員として担当することになります。
しかし、中小監査法人の場合、小規模な非上場企業や中堅企業をクライアントとして持つことも多くなります。規模が小さいためクライアントとの距離が近く、直接やりとりする機会が増えるというメリットがあります。
また、クライアントとの距離が近いことで、より具体的で効果的なアドバイスが提供できたり、自分のスキルアップにつながったりというメリットもあります。

中小監査法人で得られる自己成長のチャンス

中小監査法人はその特性から、幅広い業務に携わることで公認会計士としての専門性だけでなく、ビジネスパーソンとしての総合的な成長を促す環境が整っています。クライアントとの距離が近い環境や少人数のチーム体制によって、責任感を伴う実務経験を得る機会が豊富にあります。
また、中小監査法人では個々の裁量が大きく、若手であっても主体的に仕事に取り組む場が多く提供されるため、キャリアの初期段階から大きく成長することが可能です。
この章では、中小監査法人における具体的な自己成長の機会について詳しく解説します。
多岐にわたる業務の経験が可能
中小監査法人では、監査業務だけでなく、アドバイザリー業務やクライアントの経営課題に対応するコンサルティングなど、多岐にわたる業務に携わることができます。大手監査法人では監査業務が細分化されており、特定の分野に限定されがちですが、中小監査法人では少人数体制の特性を活かし、一人の担当者が広範囲な役割を担うケースが多く見られます。
例えば、新人の段階から財務デューデリジェンスやIPO準備支援、さらには内部統制の構築支援など、さまざまな業務に関与することが期待されます。これにより、公認会計士としての基礎スキルだけでなく、実践的で応用力の高いスキルを早期に身につけることが可能です。結果として、自分のキャリアの幅を広げ、将来的なキャリアチェンジにも対応しやすいスキルセットを構築することができます。
また、中小監査法人では、税務業務に関わる機会があるのも特徴の一つです。監査業務の延長線上でクライアントの税務申告や税務計画の立案に携わることがあり、この経験が税務の専門知識を磨く一助となります。こうした多岐にわたる業務経験は、キャリア初期において非常に貴重であり、将来のキャリアにおける強力な武器となります。
自ら提案しやすい風通しの良さ
中小監査法人のもう一つの大きな特徴は、風通しの良い職場環境にあります。組織の階層が少なく、意思決定のスピードが速いため、若手でも自分の意見やアイデアを提案する機会が多く提供されます。このような環境では、自分の提案が即座に業務に反映されることが多く、成功体験を積む機会が増えます。
例えば、業務の効率化を目指した新しいプロセスを提案したり、クライアントの課題解決に向けた独自のアイデアを持ち込んだりすることで、自らの存在感を示すことが可能です。これにより、単に与えられた仕事をこなすだけでなく、自分自身が業務や法人の方向性に影響を与えられるという実感を得られます。
さらに、提案活動を通じて、コミュニケーション能力やリーダーシップを磨くことができるのも大きな魅力です。上司や同僚との密接なやり取りを通じて、説得力のあるプレゼンテーションや建設的な議論のスキルを習得することができます。このような経験は、監査法人内でのキャリアアップだけでなく、将来的なキャリアチェンジや独立にも役立つスキルとして活用できるでしょう。
経営視点を養う経験
中小監査法人のクライアントには、中小企業やスタートアップなど、経営者との距離が近い企業が多く含まれます。そのため、日常業務において経営陣と直接やり取りを行う機会が多く、この経験が公認会計士としての成長に大きく寄与します。クライアントの財務状況を改善するための提案や、事業戦略の立案に貢献することで、会計の枠を超えた経営視点を養うことができます。
例えば、あるクライアント企業の経営改善プロジェクトにおいて、経営陣と連携しながら再建計画を策定し、その実行をサポートしたケースが挙げられます。このような実務経験を通じて、財務的な課題解決だけでなく、企業の成長や再建のための戦略的なアプローチを学ぶことができます。また、これらの経験を積むことで、将来的に独立を目指す際にも役立つ経営的な視点を持つことができます。
中小監査法人でのこうした経験は、単なる監査業務の遂行にとどまらず、プロフェッショナルとしての総合的な成長を支える重要な要素となります。特に、将来的に経営者的な役割を目指している方や、自らのスキルをより広範に活用したいと考えている方にとって、中小監査法人は非常に魅力的な選択肢と言えるでしょう。
中小監査法人での勤務は、監査業務に限らず多彩な経験を得られる貴重な場であり、自己成長を目指す公認会計士にとって理想的な環境です。幅広い業務への対応力や、経営視点を学ぶ機会を通じて、自分の可能性を広げる絶好の機会を提供してくれます。このような環境でキャリアを積むことで、公認会計士としてだけでなく、総合的なビジネススキルを持つプロフェッショナルとして成長することができるでしょう。
中小監査法人のデメリット

中小監査法人にはデメリットもあります。いったいどんなデメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
大手より最新の監査に触れにくい
大手監査法人は、大手企業との取引が多いため、最新の監査手法や技術に触れる機会が多くなります。
それに対し中小監査法人では、大手企業との取引が限られるため、最新の監査業務に触れる機会が少なくなる可能性があります。
そのため高度な会計処理や、最新の監査業務に興味がある方にとっては、デメリットと感じるかもしれません。
海外経験の機会は限られる
中小監査法人は、主に国内クライアントの業務を担当するため、海外での実務経験を得る機会は限られる可能性があります。
この点は、国際的なキャリアを目指す方にとってはデメリットとなるかもしれません。

規模の小ささにより人間関係の悩みが生じる可能性がある
中小監査法人の規模の小ささには、親密な関係が築きやすいというメリットがあります。
しかしその一方で、一度人間関係のトラブルが起こると、解決が難しくなるデメリットも考えられます。
また、小さな組織では、一人一人の役割や貢献が明確になるため、やりがいがある分、大きなプレッシャーを感じる場面も出てくるでしょう。
さらに、中小監査法人ではクライアントとの距離が近いため、コミュニケーション能力が重視される場面も増えます。

中小監査法人がおすすめな人

中小監査法人のメリットやデメリットを踏まえて、中小監査法人が向いている人の特徴や、どのようなキャリア志向を持つ人にとって、中小監査法人がおすすめなのかを解説します。
ご自身のキャリアプランと照らし合わせながら、参考にしてみてください。
監査以外の幅広いスキルを身につけたい人
中小監査法人では公認会計士としての専門性を高めながら、監査以外の業務に携われるため、監査以外のスキルも身につけたい方におすすめです。
中小監査法人には多様な業界のクライアントがいるので、幅広い知識やスキルが身につきます。
監査に関する知識だけでなく、コミュニケーション能力や問題解決能力、コンサルティング能力も養えるのが中小監査法人のメリットです。
ワークライフバランスを重視したい人
中小監査法人では、激務の大手監査法人に比べ、働きやすい環境が整っている場合が多いです。
監査法人でのキャリアをしっかり築きつつ、家庭や趣味、ライフスタイルも大切にしたい方には中小監査法人がおすすめです。
キャリアアップに興味がある人
中小監査法人は、早期から多様な業務に携わる機会があり、さらに早い段階での昇進も期待できます。
大手監査法人と比較すると昇進のスピードが早いという特長があるので、早い段階で責任あるポジションを経験したい方には中小監査法人がおすすめです。

中小監査法人を選ぶ際のポイント

中小監査法人を選ぶときにチェックするべきポイントについて、詳しく解説します。
ぜひ就職活動で中小監査法人を選ぶ際の参考にしてください。
「業務及び財産の状況に関する説明書類」をチェックして特長を把握する
中小監査法人を選ぶ際は、「業務及び財産の状況に関する説明書類」をチェックしましょう。
有限責任監査法人が公表しているが公表している「業務及び財産の状況に関する説明書類」は、監査法人についての正確な情報を知ることができる資料です。この書類には監査法人の沿革や、監査証明業務の状況、審査体制などについて詳しく記載されています。

社員の離職率を確認する
離職率は、その監査法人の働きやすさや組織の健全さを示す指標となります。離職率が高い場合、何らかの組織的な課題や人間関係の問題が存在する可能性が考えられます。
反対に、低い離職率の中小監査法人は、安定して働ける環境が整っていると考えられるでしょう。
女性会計士の人数や育休支援の取り組みをチェックする
女性が多く活躍している監査法人は、ワークライフバランスの取り組みが進んでいる可能性が高いと考えられます。
そのため、女性が活躍している監査法人かどうかをチェックするのがおすすめです。具体的には、産休・育休の取得率や、育休復帰後のキャリア支援を確認しましょう。

まとめ

今回の記事では、中小監査法人のメリットについて解説しました。
記事の内容をまとめてご紹介します。
- 中小監査法人とは大手監査法人以外の監査法人
- 大手との違いはクライアントの規模や業務範囲
- メリットは多様な実務経験や昇進の速さ
- デメリットは最新の監査ノウハウに触れにくいこと
- おすすめなのは監査以外のスキルを身につけたい人、ワークライフバランスを重視する人
- 選ぶ際のポイントは「業務及び財産の状況に関する説明書類」を通じて各監査法人の特色を理解すること、離職率や育休取得率をチェックすること
中小監査法人には、大手監査法人には無いさまざまな魅力があります。
自分の理想とするキャリアや働き方と照らし合わせて、最も自分に合った監査法人を選び、公認会計士として充実したキャリアを築きましょう。