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中小監査法人の年収はいくら?役職・年齢による年収の変化や大手監査法人との比較も解説

中小監査法人の年収はいくら?役職・年齢による年収の変化や大手監査法人との比較も解説

中小監査法人とは、大手監査法人に該当しない監査法人のことですが、本記事では「従業員規模が10~99人の監査法人」を中小監査法人と定義しています。中小監査法人の一例としては、史彩監査法人、新創監査法人、監査法人薄衣佐吉事務所、栃木監査法人などが挙げられます。

中小監査法人への就職を検討する際、多くの方が気になる要素に年収があります。「中小監査法人への就職に興味があるものの、年収が低いのであれば就職先選びを再考したい」という方も多いです。

そこで今回は、中小監査法人の年収はいくらなのか詳しく解説します。中小監査法人の年収に関連する、以下の内容にも触れていますので、就職先選びの参考にしてください。

  • 中小監査法人の職位別の年収幅
  • 中小監査法人と大手監査法人の平均年収の比較
  • 中小監査法人と日本の平均年収の比較
  • 中小監査法人の平均年収が高い理由
  • 中小監査法人の初任給
  • 中小監査法人の入所1年目のボーナス

中小監査法人で働くうえでの具体的な年収額は、入社する法人の業績によっても変動します。本記事で紹介する年収に関しては、あくまでも参考としてご覧ください。

中小監査法人の年収はいくらか

新卒で中小監査法人への就職を考えるとき、やはり気になるのは年収額です。公認会計士として中小監査法人に就職する場合、具体的な年収はいくらくらいなのでしょうか。

本章では、政府の統計調査から見た平均年収や、大手監査法人との比較など、中小監査法人の年収に関する基本的な情報を紹介します。

賃金構造基本統計調査にもとづく平均年収

厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、中小監査法人(本記事では従業員規模が10~99人の法人を想定)に勤務する公認会計士の平均年収は、約693万円です。本統計調査の資料より、中小監査法人の年収に関するデータを抜粋し、下表にまとめました。

区分10〜99人
年齢勤続年数所定内実労働時間数超過実労働時間数きまって支給する現金給与額年間賞与その他特別給与額
単位時間時間千円千円
公認会計士、税理士44.313.31679412.71978.2

「きまって支給する現金給与額」は月収、「年間賞与その他特別給与額」はボーナス・賞与にあたります。以下の計算式で、中小監査法人の平均年収を算出しました。

  • 「きまって支給する現金給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」

なお、このデータには公認会計士だけでなく、税理士も含まれている点にご注意ください。

上記のデータを見て、中小監査法人の年収は予想以上に低いと感じた方もいると思います。しかし、ひとことに中小監査法人といっても、法人規模や抱えている顧客の数などは大きく異なるため、年収もさまざまです。当然ながら、すべての中小監査法人が同じ年収というわけではなく、平均よりも遥かに年収が高い法人もあります。

職位別の年収幅

続いて、中小監査法人における職位別の年収幅を見ていきます。

「令和4年賃金構造基本統計調査」より、中小監査法人における経験年数ごとの給与額を抜粋し、平均年収を計算して下表にまとめました。こちらも、公認会計士と税理士を合わせたデータである点にご注意ください。

経験年数所定内給与額(千円)年間賞与その他特別給与額(千円)年収(千円)
0年212.125.62570.8
1〜4年283.4778.54179.3
5〜9年370.41772.46217.2
10〜14年413.32602.97562.5
15年以上458.12583.28080.4

これはあくまでも一つの目安ですが、上表で分類されている経験年数は、それぞれ以下のような職位に該当します。

  • 0〜4年:スタッフ
  • 5〜9年:シニアスタッフ
  • 10〜14年:マネージャー
  • 15年以上:パートナー

以上のデータから、中小監査法人における職位別の平均年収は約257万円〜約808万円と幅広いことが分かります。

なお、職位別の平均年収は、以下の計算式で算出しています。

  • 「所定内給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」

ここでの計算では前項とは違い、「きまって支給する現金給与額」ではなく「所定内給与額」を月収として用いています。

会計キャリアナビ
所定内給与額は、「きまって支給する現金給与額」から時間外手当を除いた金額です。

つまり、前項とは年収の算出条件が異なっていますが、中小監査法人における経験年数(職位)別の年収幅のイメージを掴むうえで役立つデータです。

大手監査法人の平均年収と比較

続いて、大手監査法人(従業員規模が1,000人以上の法人)の平均年収を紹介し、中小監査法人と比較します。

会計キャリアナビ
大手監査法人とは、EY新日本有限責任監査法人、有限責任あずさ監査法人、有限責任監査法人トーマツ、PwCあらた有限責任監査法人の4つの法人のことです。「big4」とも呼ばれています。4つの法人すべてが公認会計士・監査審査会の定義において「大手監査法人」に分類されています。

「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、大手監査法人に勤務する公認会計士の平均年収は、約904万円です。本統計調査の資料より、大手監査法人の年収に関するデータを抜粋し、下表にまとめました。

区分1,000人
年齢勤続年数所定内実労働時間数超過実労働時間数きまって支給する現金給与額年間賞与その他特別給与額
単位時間時間千円千円
公認会計士、税理士38.811.014523567.02240.5

平均年収は、中小監査法人と同条件で計算しています。

大手監査法人の方が、中小監査法人よりも214万円ほど平均年収が高いです。ただし、これはあくまでも平均値であり、実際には大手監査法人と同程度の年収が得られる中小監査法人も珍しくありません。

日本の平均年収と比較

最後に、日本全体の平均年収を紹介し、中小監査法人と比較します。

国税庁の「令和3年分 民間給与実態統計調査」によると、給与所得者全体の平均年収は443万円で、正社員(正職員)全体の平均年収は508万円です。

中小監査法人に勤務する公認会計士の平均年収は約693万円なので、日本全体の平均よりも遥かに高いことが分かります。

なぜ中小監査法人の平均年収は高いのか

ここまで読んで、大手監査法人ほどではないものの、中小監査法人の平均年収は非常に高い水準であることが理解できたはずです。しかし、なぜ中小監査法人の平均年収は高いのか、理由が気になる方は多いのではないでしょうか。

中小監査法人の平均年収が高い主な理由としては、以下の4つが挙げられます。

  • 人手不足や他法人との競争により優秀な人材を確保するため
  • 大手監査法人よりも昇進しやすいため
  • 効率的に報酬が得られる仕組みを作っているため
  • 家賃・人件費などの間接コストを抑制できるため

それぞれの理由を順番に解説します。

人手不足や他法人との競争により優秀な人材を確保するため

2015年の東芝の会計問題の影響で、大手監査法人が顧客を厳しく選別するようになりました。これにより、中小監査法人が大手企業の監査を手がけるチャンスが増え、取引が増加しました。

帝国データバンクの「上場企業の監査法人異動調査(2021年)」によると、2021年には219社の上場企業が監査法人を変更しており、大手監査法人から中小監査法人への移行が過去最多の92社あったと報告されています。このような流れから、中小監査法人での求人が増え、人手不足が目立つようになりました。

もともと新卒者は大手監査法人への就職を希望する傾向があり、中小監査法人では人材獲得が難しく、人手不足の状況に悩まされていました。この状況に商機の拡大という要因が加わったことで、中小監査法人では、高い年収を提示して公認会計士を確保しなければならない状況にあります。

大手監査法人よりも昇進しやすいため

最近、大手監査法人では、昇進が難しくなっています。上位の役職が埋まっているうえに、多くのライバルがいるため、スタッフやシニアスタッフなどからすると、昇進のチャンスが少ないです。大手監査法人で働いていても、昇進して高い給料を得るのは難しいというケースが多くあります。

これに対して、中小監査法人は組織の規模が小さいため、大手監査法人よりも昇進のチャンスが多いです。必要に応じて新しい役職を作るなど、柔軟な対応が受けられる法人もあります。昇進すれば年収も上がるため、大手監査法人を辞めて中小監査法人に転職し、昇進を目指す人も増えています。

効率的に報酬が得られる仕組みを作っているため

大手監査法人は、提携している海外ファームからの要求が厳しく、監査に求められる手続きが多くなりやすいです。そのうえ、監査において非常に高い質が求められています。

一方、中小監査法人ではこうした要求を受けることがなく、書類作成業務を最小限に抑えられるため、監査がスムーズに進みます。結果として、効率的に監査報酬を得られるため、従業員の年収を上げやすいのです。

家賃・人件費などの間接コストを抑制できるため

大手監査法人は、都内一等地に大きな事務所を持ち、多くのスタッフを雇っています。そのため、家賃や給料などの経費がかさんでしまいます。

一方、中小監査法人は比較的家賃の低い場所に事務所を構えているうえに、スタッフ数が少ないことから経費を抑えられます。経費を抑えられた分、従業員の年収に反映させることが可能です。

中小監査法人で年収を上げるための戦略

中小監査法人での年収を上げるためには、戦略的な行動が求められます。中小監査法人の環境は、大手に比べて柔軟な働き方ができ、昇進やキャリアの多様化の機会が多いことが特徴です。

ここでは、年収アップに向けた具体的な方法として「早期昇進」「副業やアドバイザリー業務の活用」「自己成長に向けたリソースの活用」の3つのアプローチについて解説します。これらのポイントを押さえることで、中小監査法人でのキャリアをさらに充実させることができるでしょう。

早期昇進を目指すポイント

中小監査法人では、組織規模が比較的小さく、意欲的な社員が早期に昇進しやすい環境が整っています。早期昇進を目指すためには、以下の点に注目することが大切です。

業務の幅を広げる姿勢

クライアントとの距離が近いため、通常の監査業務に加え、アドバイザリーや財務に関する提案などにも積極的に取り組むことで評価が高まり、昇進のチャンスが生まれます。

自主的なスキルアップ

中小監査法人では、自らの成長を促す姿勢が重要視される傾向があります。資格取得や業務に関連するスキルを磨くことが評価されやすく、昇進にもつながりやすいです。

上司とのコミュニケーション

組織が小規模な分、上司やパートナーと直接やり取りする機会が多く、個々の成果が注目されやすいです。日頃の業務でのコミュニケーションを密にし、自分の貢献をアピールすることが重要です。

副業やアドバイザリー業務の活用

中小監査法人では、副業を認めている場合も多く、特に近年では専門性を活かした副業が年収アップの一助となっています。また、法人内でアドバイザリー業務に携わることも、年収を上げるための戦略の一つです。

副業での収入アップ

中小監査法人では柔軟な働き方ができるため、個人での税務アドバイザーや、企業のコンサルタントとして活動するケースも見られます。副業での収入はもちろん、実務を通じて監査業務に活かせるスキルも得られるため、本業にも好影響を与えるでしょう。

アドバイザリー業務の拡充

クライアントの経営課題に対応するアドバイザリー業務は、報酬が高い傾向にあります。アドバイザリー業務に参加することで専門的なスキルを磨きつつ、高い収入も見込めます。

自由度の高いキャリア設計

副業やアドバイザリーに携わることで、監査以外の収入源が得られるだけでなく、将来の独立やさらなるキャリア形成の幅が広がるでしょう。

自己成長に向けたリソースの活用

年収を上げるためには、スキルを磨き続けることが欠かせません。中小監査法人では、成長意欲の高い人材を応援する環境が整っているケースも多く、自己成長のためのリソースを活用することが重要です。

研修や自己学習の活用

中小監査法人でも、スキルアップのための研修やセミナーを提供していることがあります。これらのリソースを積極的に活用し、知識を深めることで評価が高まりやすくなります。

業界情報や専門知識の習得

日々の業務に関連する最新情報や専門分野の知識を積極的に学び、実務に活かすことで、クライアントへの価値提供の質を向上させられます。

メンターやアドバイザーの活用

組織規模が小さい分、先輩や上司からの指導が得られやすく、成長のためのフィードバックを受ける機会も多いです。キャリアのアドバイスや具体的な業務のサポートを得ることで、昇進・昇給に向けた実力をつけられるでしょう。

これらの戦略を活用することで、中小監査法人における年収アップがより現実的になります。自己成長を重視し、多様な経験を積むことが、キャリアと年収を充実させるための鍵となるでしょう。

高年収を期待して中小監査法人に就職する際の注意点

中小監査法人への就職は、高年収をはじめさまざまなメリットがある一方で、少なからず注意点も存在します。

本章では、中小監査法人に就職する際の注意点を2つ紹介します。

  • 研修・マニュアルが不十分な監査法人もある
  • 海外勤務の機会が少ない

メリットと注意点の双方を把握し、中小監査法人への就職を検討する際の材料としてください。

研修・マニュアルが不十分な監査法人もある

大手監査法人ではしっかりした研修が行われ、詳細なマニュアルが用意されています。

一方、中小監査法人では研修が簡素化されていたり、基本的なマニュアルしかなかったりするため、先輩の助言や自身の調査を頼りに知識を習得していくことが多いです。

担当者によって同じ業務でも取り扱い方が異なっていることもあり、業務のやり方や手順などについて正確に理解するのに努力が必要です。

海外勤務の機会が少ない

大手監査法人では、海外の提携ファームでの研修・勤務のプログラムがあります。プログラムに参加するには法人内での選抜を勝ち抜く必要がありますが、グローバルな経験を積みたい人にはチャンスです。

中小監査法人でも海外勤務の機会はあるものの、大手監査法人に比べると限られています。

中小監査法人への就職が向いている人の特徴

ここまでに説明したメリット・注意点を踏まえると、中小監査法人への就職が向いている人の特徴は、以下のとおりです。

  • メリハリある働き方を望む人
  • キャリア志向が強い人

それぞれ詳しく説明しますので、ご自身に当てはまるかどうか確認しながらご覧ください。

メリハリある働き方を望む人

中小監査法人に就職すると早い段階で裁量が与えられるため、自分で効率の良い仕事の進め方を考えられるようになります。

キャリア志向が強い人

大手監査法人では、同僚との昇進競争が厳しく、スピーディーに昇進していくのは難しいです。

一方、中小監査法人では昇進のチャンスが比較的早く訪れるため、早期でのキャリアップを望む人には適しています。

中小監査法人の年収についてよくある質問

最後に、中小監査法人の年収について調べている新卒生の方からよくある質問と回答を紹介します。

中小監査法人の初任給はいくら?

「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、中小監査法人における入所1年目の人の平均月収(所定内給与額)は、21万2,100円です。

中小監査法人の初任給は上記に近い金額になることが想定されます。

中小監査法人の入所1年目でボーナスはもらえる?

「令和4年賃金構造基本統計調査」を見ると、中小監査法人における入所1年目の人にも、平均25万6,000円のボーナス(年間賞与その他特別給与額)が支給されています。

監査法人によって支給の有無や金額は異なりますが、入所1年目でもある程度のボーナスをもらえる可能性があります。

まとめ

最後に、本記事の要点をまとめてご紹介します。

  • 中小監査法人に勤務する公認会計士の平均年収は約693万円
  • 大手監査法人に勤務する公認会計士の平均年収は約904万円
  • 中小監査法人における職位別の平均年収は約257万円〜約808万円と幅広い
  • 中小監査法人の公認会計士の平均年収は日本全体の平均年収(給与所得者全体:443万円、正社員(正職員)全体:508万円)よりも遥かに高い
  • 中小監査法人の平均年収が高い理由には、人手不足・昇進のしやすさ・効率的に報酬が得られる仕組み家賃・人件費などの間接コスト抑制などが挙げられる
  • 中小監査法人の初任給は21万2,100円に近い金額
  • 中小監査法人の入所1年目のボーナスは25万6,000円程度

中小監査法人と大手監査法人の平均年収には、約214万円の差があります。しかし、あくまでも平均値で、実際には大手監査法人と同程度の年収が得られる中小監査法人も珍しくありません。中小監査法人は比較的昇進しやすく、早期での年収アップも期待できます。

中小監査法人への就職は、高年収以外にも数多くのメリットがあります。監査以外の業務経験も積みたい、メリハリある働き方がしたい、早期にキャリアアップしたいといった新卒生の方には、中小監査法人への就職がおすすめです。