公認会計士としての新たなキャリアをスタートさせる際、特に監査法人での出世は多くの人にとって重要な目標です。出世により高い年収や賞与、待遇が受けられるのに加え、上位職位の就任で大きな責任と影響力を持ち、公認会計士としての認知度や評価を高められます。
本記事では、監査法人における出世競争の裏側、階層構造、必要とされるスキルセット、そして外部要因がキャリアパスにどのような影響を及ぼすのかを紹介します。公認会計士が出世への道を歩み出し、自身の多様なキャリアパスを選び取るための具体的な方向性をまとめていますので、最後までご一読ください。
目次
監査法人での出世の現実
監査法人に就職した場合、出世を目指すにはどのような状況が待ち構えているのでしょうか。出世競争の現実と実現に必要なポイントを簡単に紹介します。
出世競争の裏側
監査法人での出世を目指す場合、高い専門性と業務への献身に基づき具体的な実績が要求される厳しい環境が待っています。多くの公認会計士が自身の能力を発揮し、より良い評価を勝ち取るため出世という同じ目標に向かって努力するからです。
出世競争は、単に公認会計士としての専門知識や技術が優れているだけでなく、リーダーシップ、チームワーク、クライアントとの関係構築能力など、多面的なスキルが成否の鍵を握ります。また、個人の業績だけでなくチームや組織全体への貢献度も重要な評価基準のひとつです。
例えば、ある監査業務では、複数の公認会計士が個々の専門知識と経験を活かして協調性をもってチームをリードする必要があります。こうした場面では単に専門知識が豊富であるだけでなく、チームメンバーを効果的にまとめ、クライアントとの関係を構築するリーダーシップとコミュニケーション能力が重要です。
このように、出世の道は長く険しいものですが、努力を重ね厳しい状況を乗り越えた先には、専門職としてより高い地位やプロフェッショナルとしてのやりがいが待っています。
昇進に必要な基本スキルと資質
監査法人での昇進には、公認会計士としての基本スキルや資質と共に厳しいビジネス環境を泳ぎ切る広範なスキルセットが必須です。
まず、公認会計士としての高い専門知識が求められます。具体的には、会計、財務、税法などに対する深い理解だけでなく、業界特有の法規や基準に関する知識も必要です。たとえば、グローバルに展開する企業の監査には国際的な会計基準への深い理解が欠かせません。
例えば、期限内に監査報告を完了させるために、チームメンバーのスキルを最大限に活用し、各メンバーの進捗に応じて効率的な作業分担を采配する能力が求められます。
ここで挙げたスキルと資質を磨き、自身のポテンシャルを最大限発揮できる公認会計士であれば、監査法人でのキャリアアップの見通しは明るいと言えるでしょう。
監査法人の階層とキャリアパス
監査法人内で勤務する場合、法人内における職位の階層とキャリアパスとの関連性を踏まえた行動が重要です。
各職位の特徴と求められる役割
監査法人には職位としてスタッフからパートナーまでレベルに応じた職位が存在します。それぞれ下記のような独特の特徴と役割があります。
・スタッフ
監査法人に就職後、通常まずスタッフとしてキャリアがスタートします。新人から数年間、この段階で基本的な監査業務を学び、先輩の指導の下で実務経験を積みます。
スタッフの主な業務はデータの集計や分析など監査プロセスの基礎です。
・シニアスタッフ
一般的に、修了考査合格で昇格する職位です。監査チームにおいて現場責任者としての役割を果たします。
チームの管理やクライアントとの直接的なコミュニケーション、より複雑な監査業務で能力を発揮するのがシニアスタッフの段階です。
・マネージャー
管理職としてチームの統括や複雑な案件の主導を行います。マネージャーは戦略的な判断やチームメンバーの指導・育成を担い、監査業務の完遂に重要な役割を果たします。
・パートナー
監査法人の最高位に位置し、法人の運営や重要な意思決定に関わります。パートナーは業界の専門家としての地位を確立し、監査報告書のサインやクライアントとの重要な交渉を担う重責です。
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スタッフからパートナーへのプロセス
監査法人におけるキャリアパスは、スタッフからシニアスタッフ、マネージャー、パートナーへ段階的に昇進していくのが一般的です。
出世に関しては勤続年数などもある程度加味されますが、基本的に個人の専門知識やスキル、現場での成果・実績、法人内における人物評価に大きく依存します。
下記で、職位間における昇進イメージを紹介します。
・スタッフ
入社後の初期段階から3〜4年の職位で、先輩の指導の下、基礎的な知識とスキルを習得し、実務経験を積み重ねていきます。
・シニアスタッフ
修了考査合格後、シニアスタッフへの昇格が可能になります。
・マネージャー
通常、入社後8年〜10年程でマネージャーに昇格できます。法人内の出世競争でも激しいものが、マネージャーへの昇格と言えるでしょう。スタッフからシニアスタッフ時代に培った経験やスキル、認知度をはじめ、高い専門性とリーダーシップが求められます。
・パートナー
通常は15年以上の経験を有した人材の中から限られた人材のみが選ばれます。パートナーへの昇格は非常に競争が激しいので、高い実績と業界内での評価が不可欠です。
このように、監査法人内におけるキャリアパスでは、各職位段階での実績とともに広く深い人間関係を構築し、専門知識の深化や経営に関する理解も高いレベルで重要です。
したがって、監査法人で公認会計士として成功するためには、単に技術的なスキルだけでなく戦略的思考や人間関係の構築能力といったビジネス人材としての付加価値も大いに必要とされます。
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出世を後押しする重要スキル5つ
監査法人での出世を後押ししたい場合、重要な鍵を握るスキルがいくつかあります。
下記で、公認会計士のキャリアを広げ、より高い職位への昇進に欠かせない重要なスキル5つを紹介します。
語学力
グローバルネットワークファームへの参画やグローバル化による海外業務が増える中、監査法人でのキャリア形成において英語力は必須と言えます。特に外資系企業とのやりとりが多いグローバルファームと提携している監査法人の場合、英語などの語学を通じて国際業務に対応できる能力が高く評価されます。
英語力としては、TOEICであれば600点以上は最低ラインとされていますが、現場では800点以上が望ましいです。
マネジメント能力
マネージャー以上の職位経験があると、監査法人におけるマネジメント能力の証となります。
一例として、製造業の企業に対する年次監査を担当した公認会計士の場合、監査計画の策定から実行、最終報告までを一手に引き受けます。業務を通じてチームメンバーに対する業務配分や進捗管理、クライアントとの円滑なコミュニケーション、トラブル発生時の迅速な対応といった多岐にわたるマネジメントスキルが必要です。
したがって、監査業務を通じ、監査スキルの高さだけでなくチームにおけるリーダーシップや監査業務を効率的に進行する能力までも評価が受けられます。
結果、即戦力のある優れた公認会計士として業界内で高い評価につながるでしょう。
リーダーシップ
監査法人での昇進を実現する際は、チームをリードし複雑な案件を管理するリーダーシップが不可欠です。特にマネージャーやシニアマネージャーといった管理職への昇格においては非常に重要視されます。
例えば、マネージャー候補者の一人として難易度の高い新規クライアントの監査を担当した場合、各スタッフの強みを活かしつつ会計上・監査上の論点を効率的に整理・解決することで、昇進時の法人内評価も高まります。
コミュニケーションスキル
監査法人では日常的にチーム内外はもちろん、クライアントなど外部とのコミュニケーションが高いレベルで求められます。特にマネージャーやシニアマネージャー、パートナーといった高い職位になると、法人内での調整作業はもちろんのことクライアントといかに効果的な交渉や調整ができるかも重要です。
コミュニケーションスキルは監査法人で働く場合だけでなく、税理士法人やコンサルティングファームをはじめ事業会社や独立開業においても重要なスキルと言えます。
人脈
監査法人内外で広範な人脈を築いておくと、キャリアを進める上で大きな助けになります。とりわけ高い役職に就くためには、法人内だけでなく業界内での評判やリレーションシップの構築が欠かせません。
質の高い人脈を構築するスキルを業務経験の積み重ねとともに自身の努力で磨いていけば、より高いポジションへの昇進やキャリアの拡大が期待できます。
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監査法人での出世に影響する外部要因と対策
監査法人での出世には、個人の能力やスキルだけでなく、自分自身でコントロールできない外部要因も大きく影響します。
- 業界の動向と市場の変化
- 人間関係
- 社内のパワーバランス
キャリアパスにおいて重要な要素となるため、各要因の特徴と対策を紹介します。
業界の動向と市場の変化
監査業界は、上場企業がある限り、法的義務によって一定の需要が見込めるため安定しています。
ただ、経済の景気変動や法規制の変更により監査手法やクライアント対応の幅が広がり、新たなキャリアパスが形成されることも考えられます。
人間関係
上司との相性も、監査法人における昇進に大きな影響を与える場合があります。
良好な関係を築ければ昇進の機会が増える可能性があります。一方で、相性が悪く個々の努力が及ばない場合は昇進が難しくなるケースも少なくありません。
上司が部下をどう認識しているか、能力や業績に対する人事評価が昇進の大きな判断基準のひとつです。したがって、上司とのコミュニケーションや信頼関係の構築に努力する姿勢が求められます。
社内のパワーバランス
監査法人内の派閥やパワーバランスも、出世に影響を与える要素です。例えば、派閥がないようなフランクな職場であっても、人が集まって組織が営まれている以上、どうしてもいくつかのグループに分かれるため注意が必要です。
どのグループに属するか、あるいは各グループとの距離感を適切に保つかによって、昇進のチャンスに影響を与える可能性があります。
また、組織内の政治的な動きやパワーゲームは、特に高い職位への昇進時に顕著になる傾向があります。スタッフやシニアスタッフの職位の段階では法人全体のパワーバランスを俯瞰的に見るのは難しいかもしれません。しかし、できるだけ広範な組織内人脈を構築し、出世に役立つ情報の収集やコミュニケーションに対する努力も重要です。
参照:スタンフォード大人気教授が教える 出世できる人の7法則 _ 日経BOOKプラス
参照:出世するしないは、見る人が見ればすぐにわかる…「他人の評価」の本当の怖さ 社長になるぞと言って社長になった人はいない _ PRESIDENT Online
まとめ
本記事では、監査法人での出世に関するさまざまな視点を紹介しました。
監査法人での出世を実現すれば、高収入とプロフェッショナルとしての地位の向上が期待できます。
そのためには、監査法人の職位構造を把握し、スタッフからパートナーに至るまでのキャリアパスとそれぞれの役割への理解が重要です。
そして、就職後も地道に語学力、マネジメント能力、リーダーシップ、コミュニケーションスキル、人脈構築力といった出世を後押しする重要スキルを身につけましょう。
しかし、監査法人での出世には、業界の動向、上司との相性、社内のパワーバランスなど自身ではコントロールが難しい外部要因も考慮する必要があります。
監査法人に就職後、激しい出世競争を勝ち抜くためにも、昇進やキャリア形成に大切な視点を把握していきましょう。