公認会計士試験に合格し、いよいよ監査法人でのキャリアをスタートさせる時が来ました。しかし、監査法人の仕事は「激務」とよく言われます。残業はどのくらいあるのか?繁忙期と閑散期の違いは?残業を減らすための方法はあるのか?これらの疑問は、これから監査法人に就職する皆さんにとって非常に重要です。
本記事では、監査法人で働く上での残業の実態やその対策について詳しく解説します。この記事を読むことで、実際の勤務スケジュールや効率的な働き方を理解し、キャリアをより良くスタートさせるための準備ができるでしょう。
監査法人の残業実態とは?

公認会計士試験に合格し、監査法人でのキャリアをスタートさせる際に気になるのは残業の実態です。ここでは、繁忙期と閑散期の違い、平均的な残業時間、具体的な業務内容について詳しく解説します。
繁忙期と閑散期の違い
監査法人の仕事は、繁忙期と閑散期で大きく異なります。被監査会社は主に3月決算と12月決算が多いため、繁忙期は4~5月、1~2月で、業務量が増加する傾向があります。閑散期は7~9月で、大きな監査業務が少なく、比較的落ち着いた期間となります。
繁忙期には、企業の決算書類を詳細にチェックするため、多くの時間と労力が必要です。一方、閑散期には内部統制の評価や期中レビューなど、比較的業務量が少ないタスクが中心となります。
平均的な残業時間
監査法人での残業時間は、繁忙期と閑散期で大きく異なります。閑散期には、0~40時間程度の残業が一般的です。繁忙期には、60~100時間程度の残業が発生することが多いです。この時期は、企業の決算発表に向けて膨大な量の財務諸表を監査する必要があり、法定外残業時間が増加します。
繁忙期の具体的な業務内容
繁忙期には、通常の業務に加えて多岐にわたるタスクが集中します。まず、企業の財務諸表の監査が主な業務です。具体的には、企業が提出する決算書の各項目を詳細にチェックし、誤りや不正がないかを確認します。
また、被監査会社の現地視察も行われます。これは、企業の在庫管理や現金管理などの内部統制の状況を確認し、実際の在庫や現金をチェックするために行われます。
さらに、監査報告書の作成や被監査会社へのフィードバックも行われます。
閑散期の業務内容
閑散期には、内部統制監査や期中レビューのタスクが中心となります。内部統制の評価では、企業の内部統制システムが適切に機能しているかを確認し、必要な改善提案を行います。また、期中レビューでは、企業の期中ごとの財務諸表をチェックし、業績の変動やリスクを評価します。
この時期には、監査法人内での研修や自己啓発のための時間も確保されます。多くの会計士が、この期間を利用してスキルアップや資格取得に励みます。また、夏休みを取ることができるため、リフレッシュする良い機会となります。長期休暇を利用して家族旅行を楽しむ会計士も多く、心身ともにリフレッシュすることで、次の繁忙期に備えることができます。
法人別の残業時間比較(大手 vs 中小)
監査法人の残業時間は、法人の規模によって大きく異なります。とくに、いわゆる「Big4(4大監査法人)」と中小規模の監査法人では、業務体制や案件の規模が異なるため、残業時間にも顕著な違いが見られます。
大手監査法人(Big4)では、繁忙期に月100時間を超えるケースも珍しくありません。これは上場企業や外資系企業など、監査対象となる会社の規模やグローバル展開の複雑さに起因するものです。また、被監査会社数や業務のプレッシャーも高く、若手スタッフにとっては多忙な毎日となりがちです。
一方で、中小監査法人では月20~40時間程度の残業に収まることも多く、繁忙期であっても大手ほどの過酷さは見られません。業務量が比較的コンパクトであることに加え、職場環境として「ワークライフバランスの重視」を打ち出している法人も多く、落ち着いた働き方を希望する方にとっては魅力的な選択肢です。
ただし、中小でも被監査会社によって業務量は異なるため、法人選びの際は離職率や職場の雰囲気を含めて比較検討することが大切です。
残業が多い理由とその背景

公認会計士として監査法人で働く上で避けられないのが「残業」です。ここでは、なぜ監査法人での残業が多いのか、その理由と背景について詳しく解説します。
監査業務の特性
監査法人の主な業務は、企業の財務諸表の監査です。これは企業が作成した財務諸表に誤りや不正がないかを確認する重要な作業です。この作業は非常に細かく、企業の財務状況を深く理解し、詳細な検証を行う必要があります。企業の取引や経済活動を網羅的にチェックするため、膨大な量のデータを取り扱います。このため、一つ一つの監査業務には多くの時間と労力が必要で、結果として残業が増えるのです。
監査業務は期限が厳格であり、決算発表までにすべての作業を完了させなければなりません。このため、特に決算期が近づくと、業務が集中し、残業が増える傾向にあります。監査人としての責任感から、精度の高い監査を行うために時間を惜しまず取り組むことも一因です。
人手不足の現状
監査法人では、常に一定の人手不足が問題となっています。日本全国で公認会計士の数は限られており、特に繁忙期には一人一人の負担が大きくなります。『日本公認会計士協会』によれば、2024年1月現在の公認会計士の数は約35,568人であり、監査法人が求める人材の需要に対して十分とは言えません。
人手不足の状況では、一人当たりの業務量が増え、残業が必然的に多くなります。特に若手のスタッフやシニアスタッフは、経験を積むために多くの業務を担当し、長時間働くことが求められます。これが離職率の高さにもつながっており、悪循環が続いているのが現状です。
決算期のプレッシャー
企業の決算期は、監査法人にとって最も忙しい時期です。多くの企業が3月末に決算を迎えるため、4月から5月にかけては監査業務が集中します。決算発表までの期間は限られており、この間に全ての監査作業を完了させる必要があります。このため、監査法人のスタッフはプレッシャーの中で働くことになり、残業が増える原因となります。
特に、決算期には細かいチェックやデータの再確認が必要となり、非常に手間がかかります。監査の品質を保つために、細心の注意を払いながら作業を進める必要があり、結果として長時間労働が常態化します。
被監査会社とのコミュニケーション
監査法人は被監査会社とのコミュニケーションが重要です。企業の経理担当者や経営陣と密接に連携し、必要な情報を収集しながら監査を進めます。被監査会社からの質問や要望に迅速に対応するため、時間外でも連絡を取り合うことが多くなります。
特に、大企業や上場企業の被監査会社の場合、求められる監査の品質が高く、細かい対応が求められます。また、被監査会社のスケジュールに合わせて監査を行う必要があるため、業務時間が延びることが頻繁にあります。こうした顧客対応も、残業が多くなる一因です。
監査法人の働き方改革の取り組み
近年、監査法人業界でも「働き方改革」への取り組みが加速しています。長時間労働の是正が社会的に求められる中、各法人は残業の削減に向けて具体的な改善策を講じています。
まず挙げられるのが、リモートワークやフレックスタイム制度の導入です。特に新型コロナウイルスの影響を契機として、多くの監査法人でオンライン会議やクラウドツールが整備され、被監査会社とのやり取りや監査資料の確認を、自宅やサテライトオフィスから行えるようになりました。
また、AIやRPAなどの業務効率化ツールも導入が進んでおり、監査業務に必要なデータの収集・分析作業の自動化によって、従来よりも業務時間が削減されつつあります。
さらに、法人全体で「残業削減」を数値目標として明示し、管理職がその実現にコミットする制度を採用しているケースもあります。これにより、組織としての意識改革が進みつつあります。
とはいえ、すべての法人・チームで劇的な成果が出ているわけではなく、上司や配属先による影響も大きいのが現状です。実際の雰囲気や残業削減の取り組み度合いを見極めるためには、就職・転職活動の際に現場社員の声を聞くことが重要です。
残業を減らすための方法

公認会計士として監査法人で働く上で、残業を減らすことは大きな課題です。ここでは、残業を減らすための具体的な方法について、業務の効率化、チームワークの重要性、リモートワークの活用、自己管理の方法の4つの視点から解説します。
業務の効率化
残業を減らすためには、まず業務の効率化が重要です。監査業務は膨大なデータを扱うため、効率的なデータ管理と分析が求められます。例えば、監査ツールやソフトウェアを活用することで、データの集計や分析を自動化し、手作業の時間を大幅に削減できます。
また、業務プロセスの見直しも効果的です。業務フローを細かく分析し、無駄な作業や重複したプロセスを排除することで、作業時間を短縮できます。さらに、日々の業務の優先順位を明確にし、重要なタスクから順に取り組むことで、効率的に仕事を進めることができます。
チームワークの重要性
監査業務はチームで行うことが多いため、チームワークの向上も残業削減に寄与します。チームメンバーとのコミュニケーションを密に取り、業務の進捗状況を共有することで、作業の重複や漏れを防ぐことができます。
定期的なミーティングを行い、各メンバーの役割分担を明確にすることも大切です。これにより、誰がどの作業を担当しているのかを把握しやすくなり、効率的に業務を進めることができます。さらに、困ったことがあればすぐに相談できる環境を整えることで、問題解決のスピードも向上します。
リモートワークの活用
リモートワークは、効率的に働くための有効な手段です。自宅からの勤務が可能になることで、通勤時間を削減し、その分業務に集中する時間を増やすことができます。監査法人でも、リモートワークを導入しているところが増えており、柔軟な働き方が推奨されています。
ただし、リモートワークでは自己管理が重要です。集中できる環境を整え、仕事とプライベートの時間を明確に区別することが求められます。定期的に上司やチームメンバーと連絡を取り合い、進捗状況を報告することで、リモートでもスムーズに業務を進めることができます。
自己管理の方法
自己管理能力は、残業を減らすために不可欠です。まず、時間管理を徹底しましょう。1日のスケジュールを立て、タスクごとに必要な時間を見積もることで、効率的に仕事を進めることができます。さらに、休憩時間を適切に取り入れ、疲労を溜めないようにすることも大切です。
また、業務の見直しを定期的に行い、改善点を洗い出すことも有効です。自分の作業方法や業務プロセスを振り返り、より効率的な方法を模索することで、無駄な時間を減らすことができます。継続的な学習やスキルアップも、業務効率化に繋がります。
若手会計士が取り組んでいる工夫
現場で働く若手会計士たちは、限られた時間の中で高いパフォーマンスを出すために、さまざまな工夫をしています。以下は、実際に多くの人が取り入れている具体例です。
まず重視されるのが、スケジュール管理の徹底です。監査法人では複数の被監査会社を同時に担当することが多く、各監査フェーズごとのタスクを事前に洗い出し、「見積もり残業時間」を週単位で可視化しておく人が多くなっています。これにより、先のタスクを前倒しで進める工夫が可能となります。
次に重要なのが、先輩や上司からのナレッジの積極的な吸収です。監査法人では「属人化した作業」が発生しがちですが、効率の良い方法やショートカットはチーム内で共有される文化があります。ドキュメントのテンプレート化や、よくある質問への定型文作成など、再利用できる部分を蓄積する姿勢が、結果的に残業削減に繋がっています。
また、SlackやTeamsなどのコミュニケーションツールを活用し、即時相談や情報共有を促進することで、メールの往復時間を最小限に抑えているチームも増えています。些細なことでも気軽に聞ける環境づくりが、業務の滞りを防ぐ大きな要因となります。
こうした個々の工夫が、チーム全体の生産性を高め、結果として残業時間の短縮へとつながっています。
公認会計士としてのキャリアパス

公認会計士としてのキャリアをスタートさせる際、監査法人での経験は非常に価値があります。ここでは、監査法人でのキャリアアップ、転職先の選択肢、キャリアパスの考え方、将来を見据えたスキルアップについて解説します。これらの情報をもとに、監査法人でのキャリアを描いてみましょう。
監査法人でのキャリアアップ
監査法人で働くことで、専門的なスキルや知識を身につけることができます。初めはスタッフとしてスタートし、経験を積むことでシニアスタッフ、マネージャー、そしてパートナーへとキャリアアップが可能です。各段階での職務は異なりますが、監査業務マネジメントや被監査会社対応など、重要なスキルを磨くことができます。
また、監査法人での経験は幅広い業界や企業に触れる機会を提供します。これにより、業界全体の動向や企業運営の実態について深い理解を得ることができます。監査法人でのキャリアは、多様なビジネス環境で通用するスキルを養う絶好の機会となります。
転職先としての選択肢
監査法人で経験を積んだ後は、様々な転職先の選択肢が広がります。例えば、事業会社の経理・財務部門や内部監査部門でのキャリアは、監査法人での経験を活かせるポジションの一つです。また、コンサルティングファームや税理士法人でのアドバイザリー業務、金融機関でのリスク管理や財務分析のポジションも人気があります。
さらに、ベンチャー企業やスタートアップ企業でのCFO(最高財務責任者)としてのキャリアも魅力的です。ここでは、財務戦略の策定や資金調達など、経営に直接関与する役割を担うことができます。これにより、自身のキャリアの幅を広げ、より高いポジションへのステップアップが期待できます。
キャリアパスの考え方
公認会計士としてのキャリアパスを考える際には、自分の目指す方向性を明確にすることが重要です。監査法人での経験を基に、どのようなスキルを伸ばし、どの分野で活躍したいのかを具体的にイメージしましょう。例えば、監査業務を通じて得られる分析力や問題解決能力は、どの業界でも通用する強みとなります。
また、キャリアの節目ごとに自己評価を行い、必要なスキルや知識を補完するための学習計画を立てることも重要です。監査法人での業務は多岐にわたるため、幅広い経験を積むことができ、将来的なキャリアパスの選択肢を増やすことができます。
将来を見据えたスキルアップ
将来を見据えたスキルアップのためには、継続的な学習と自己研鑽が欠かせません。監査法人でのキャリアを通じて、最新の会計基準や監査基準を学び続けることが求められます。また、デジタル化の進展に伴い、ITスキルやデータ分析能力の向上も重要です。
さらに、リーダーシップやコミュニケーション能力の向上も忘れてはなりません。これらのスキルは、チームを率いる立場や被監査会社との関係構築において重要な役割を果たします。監査法人での経験を通じて、これらのスキルを磨き、自身の市場価値を高めていきましょう。
監査法人でのキャリアは、公認会計士としての成長とともに、多くの選択肢を提供します。あなたの将来を見据えたスキルアップをサポートし、より充実したキャリアを築くための第一歩として、監査法人での経験を大いに活用してください。
まとめ

この記事を読んで、監査法人での残業実態について理解が深まりましたか?残業が多い理由やその背景、そして残業を減らすための具体的な方法を学びましたね。これから監査法人で働くにあたり、効率的な働き方や自己管理の方法を身につけることは非常に重要です。自分のキャリアパスを見据え、必要なスキルを磨きながら、充実した職場環境を作り上げていくことを応援しています。あなたの成功を心から願っています。